2022/2/1 改訂 目次へ 表紙へ |
教訓注解 絵本 貝歌仙 (えほん かいかせん) 「上巻」 西川祐信画 京都菱屋治兵衞版 江戸鱗形屋孫兵衞 延享五年(1748 年) 原データ 東北大学デジタルコレクション 狩野文庫画像データベース |
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解説 様々な貝にちなむ古今の名歌計三十六首の歌に注釈と教訓を加えて、主に 女子向けの教養書として書かれたものと思われる。墨摺絵本。 江戸中期の浮世絵師 西川祐信は江戸中期の浮世絵師。西川派の始祖。自得斎、文華堂ともいう。 京都の人。 西川祐信は狩野永納・土佐光祐に学び、また、江戸浮世絵の影響を受けな がら、京畿の風俗や美人を典雅な様式で描き出し、京都における浮世絵を 発達させた。 |
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(1) 教訓 注解 絵本 貝歌仙 |
(2) 教訓 注解 ちゞのかい、あつめたる一箱を
絵にうつして、といふより 歌の つゝ、教訓の |
(現代語訳) 自序 さまざまな貝を集めた一箱を絵に写したと言うよりは、絵の 趣に随って注を加えている内に、教訓の三巻となった。 |
(3) を宝とす。 かいあるとハよき あしき 風雅を理屈の たるとわらふ人ありとも、それハ めでたき世の 諧の口ふさぎなり。 作者 金吾 延享五 辰の初春 |
*有職故実 朝廷や武家の礼式・典故・官職・法令 などに関する古来のきまり。 *子玄が清言しらず。(不明) |
そのことが今に伝えられて、「かいある」とは善きことば。 「かいなし」は悪しきことばという。大和歌の風雅を理屈の ても、それは 筆貝(文章で書かれた貝即ち宝)を、目出度い世の大事な 宝である子供らへ贈るとというが、本当のところは戯れの 口よごしに過ぎない。 作者 金吾 延享五年 辰の初春 |
(4) すだれ貝 浪かゝる ふきあげの はまの すだれ貝 風もぞおろす いそぎひろハん 此歌の心は浜辺の 貝をひらふに とやかくひまとれバ 風ふきおろして よせくる波に さまたげらるゝほどに はやくひろへとなり すだれといふより 吹おろすといひつゞけ たる 何事も善ハいそげ のことぐさ、おもひあハせ ておこたるべからず |
すだれ貝(簾貝) マルスダレガイ科の二枚貝。浅海の砂底にすむ。 貝殻は横長の楕円形で、殻長約6㎝。 殻表にすだれ状の輪脈があり、淡褐色の地に褐 色の放射帯がある。本州・九州に分布。 |
(西行法師家集 追加) なみよする-ふきあけのはまの-すたれかひ-かせもそおろす-いそにひろはは (山家集 歌枕名寄 夫木和歌抄) なみかくる-ふきあけのはまの-すたれかひ-かせもそおろす-いそきひろはむ |
(5) わすれ貝 ミ津の浜 磯こす波の わすれ貝 わすれず見する 松がねのこえ 此うたのこゝろは 名こそわすれ貝 なれ 松風の音に たちたるミ津の はまなれば わするゝ やうもなくその ところの貝は ひらハるゝなり ひたすらよき名 もとむべし なき名よバるゝ人も その べきいましめにぞ |
わすれ貝(忘れ貝) *二枚貝の離れ離れの一片。他の一片を忘れる という意の名称といい、またこれを拾うと恋を 忘れるという。 *マルスダレガイ科の二枚貝。殻は平たくて厚く、 円形に近く、殻長6~7㎝。 |
(建保名所百首 夫木和歌抄 ) 順徳院 みつのはま-いそこすなみの-わすれかひ-わすれすみゆる-まつかねのゆめ (歌枕名寄) みつのはまの-すゑこすなみの-わすれかひ-わすれてみつる-まつかねのゆめ *なき名(無き名) 身に覚えのないうわさ。ぬれぎぬ |
(6) 梅の花貝 春風に浪や ちりけん まがきがしまの 梅のはな貝 此うたのこゝろハ 梅の花がいときけバ にほひもゆかしく 折から春ふく風に ふきちりて まがきが島 にやと これをいましめとすれば やさしき名にも似ず 女中の あらあらしき ふるまひハ あしくとかや |
梅の花貝 ツキガイ科の小形の二枚貝。殻はやや球形に 近く、梅の花弁に似る。大きさ約6㎜。殻表 は白、内面は純白。 |
(散木奇歌集 歌枕名寄 夫木和歌抄)源俊頼 はるかせに-なみやをりけむ-みちのくの-まかきのしまの-うめのはなかひ |
(7) 桜貝 伊勢の海 なミの玉よる さくら貝 かひある浦の 花の色かな 此うたの心ハさくら貝 といふ名も波の いつくしき海辺 にハいとゞ相応 なり やんごとなき かたにつかへ またハよき人に つれそふならば それに はぢらいて にあわしく もてなすべし |
桜貝 ニッコウガイ科の二枚貝。貝殻は薄くやや長 方形、淡紅色で美しく、殻長約3㎝。日本各 地の内湾に産し、貝細工などに使われる。 古称、花貝(はながい)。8頁の花貝と同じ種 類か。 |
(建保名所百首)定家 いせのうみや-たまよるなみの-さくらかひ-かひあるうらの-はるのいろかな (拾遺愚草 夫木和歌抄)定家 いせのうみ-たまよるなみに-さくらかひ-かひあるうらの-はるのいろかな |
(8) 花貝 枝ながら うづまく波の おらねばや ちりぢり(散り散り) よする 千代の花貝 万物自然の妙用をよし とす しゐて人力をつくし 天理を となり 花をも折とる 時ハちりやすし枝ながら にしておらねバ波の まにまに千代の栄へを 見するとなり 女中の 身だしなミもあまり つくろいすぎ つゐしやう(追従)らしきハ かへりてあしゝ たゞおのづから なる美形ありていつハり なきこそ千世もあかなき こととぞ |
花貝 1 サクラガイの古称。7頁の桜貝と同じものか。 2 マルスダレガイ科の二枚貝。浅海の砂底に すむ。 *狭義の桜貝はニッコウガイ科の二枚貝の一種。 サクラガイ広義には、上記の桜貝やその近縁 種を含む、ピンク色の貝殻を持つ二枚貝の総 称。Wikipedia |
(斎宮貝合) えたなから-うつまくなみも-をらねはや-ちりちりよする-よるのはなかひ (夫木和歌抄)読人不知 えたなから-うつまくなみも-をらねはや-ちりちりよする-ちよのはなかひ |
(9) ますう貝 塩そむる ますうの小貝 ひらふとて いろの浜とハ いふにやあらん 此歌の心ハ小貝の なにたちていろの はまとハいふにやと うたがひたり みめよき人 わかき人と したしむハ かねて此心得 にて よそに うたわれ あやしまれぬ つゝしミ あるべし |
ますう貝 真蘇芳貝 マスオ貝 マスオとは、赤色、蘇芳色(すおういろ:黒みを 帯びた紅色)をさす。(「貝の和名」より) シオサザナミガイ科の二枚貝。殻長4~5㎝。 |
(山家集) 西行 しほそむる-ますほのこかひ-ひろふとて-いろのはまとは-いふにやあるらむ (夫木和歌抄) 西行 しほそむる-ますほのこかひ-ひろふとて-いろのはまとは-いふとやあるらむ |
^ | (10) むらさき貝 むらさきの 貝よる浦の 藤がたハ 波のかゑるぞ はなと見へける 紫といへば 藤とおもわるゝ ためし 常のしなしにて おもハぬいひかけにも あふことあり 人ハ 李下に冠の ふだんが大事ぞと しるべし |
むらさき貝(紫貝) ムラサキガイ 二枚貝綱 異歯亜綱 マルスダレガイ目 |
(斎宮貝合) むらさきの-貝よるうらの-藤かたは-波のかかるそ-はなとみえける (夫木和歌抄) 読人不知 むらさきの-貝よるうらの-藤かたは-波のかくるそ-はなとみえける |
(11) 白貝 はるはると しらゝの浜の しら貝は 夏さへふれる 雪かとぞ見る 白きをミれハ 雪霜の あやしミあり 物をうたがへば わざハひおこる 何事もさらさらと とゞこほるべからず |
白貝 サラガイ 皿貝 のことか。別名 : 万寿貝、万十貝、、満珠貝、 白貝、女郎貝。 東北地方以北の浅海にすむ。貝殻は白色。 長卵形で平たく、殻長7㎝ほど。食用。 ニッコウガイ科の二枚貝。しろかい |
(歌枕名寄) はるはると-しららのはまの-しろかひは-なつさへふれる-ゆきかとそみる |
(12) なでしこ貝 ちしほ しむ(千入 染む) なでしこ 貝に しく いろは あらじとぞ おもふ 人の親の癖 として我子 ばかりをよしと おもひ あるまじと あまやかすハ おろかの心 よく気を 転じて 子ハきびしく そだてやしなふ べしとなり |
なでしこ貝(撫子貝) イタヤガイ科の二枚貝。殻長3.5㎝。 |
(斎宮貝合 夫木和歌集)読人不知 ちしほしむ-なてしこかひに-しくいろは-やまとからにも-あらしとそおもふ |
(13) なミまがしわ とるほどに 日もくれ 袖に つきぞ やどれる とやかく するまに 月日のたつハ 夢のまぞかし あさ起出て より夕ぐれ まで ゆだんなく それぞれの しごと あるべし |
なみまがしわ(波間柏貝) ナミマガシワガイ ナミマガシワ科の二枚貝。浅海の岩や小石など に付着し、貝殻はほぼ円形で薄く、殻長約4㎝。 左殻は雲母状の光沢があり、白・黄・赤橙色など。 右殻には足糸を出す大きな穴がある。 |
灘波女が 波間柏を 採るほどに 日も暮れ袖に 月ぞやどれる |
(14) きぬた貝 ちぎり おきし 秋ふけて うてる きぬたの かひも なかりき 其節ハ心やすく できんとおもふ ことも おほくは時過て 跡へなるものなり それからそれへ 糸車の まわしを はやふ心がく べし |
きぬた貝 アケボノキヌタのことか。曙砧。 シオサザナミガイ科 の二枚貝。 |
(15) まくら貝 舟とむる いその浪路の 枕がい かひある夢に あわざらめやは おろかの いづれハ よき しあハせに あふべし いつまでも かゝるくろうハ せまじとて 末をたのミに 今日のうさつらさを わすれて物ハ 退屈すべ からず |
まくら貝(枕貝) マクラガイ科の数種の巻貝の総称。その一種のマクラ ガイは、殻高約4㎝、円筒形で、表面に琺瑯質(ほうろう しつ)を被り、淡黄色の地に栗色の折線を密布し美しい。 ふたは持たない。本州南部・四国・九州の浅海の砂泥中 に産する。 |