2022/2/1改訂 目次へ |
西川祐信画 京都菱屋治兵衞版 江戸鱗形屋孫兵衞 |
「絵本貝歌仙 上巻へ」 「絵本貝歌仙 下巻へ」 |
(1) 教訓 注解 絵本 貝歌仙 |
(2) |
(3) にしき貝 こきまぜに 色をつくして よる貝ハ 錦の浦と みゆるなりけり さまざまの貝 いづれもいつく(美)し けれどすぐれたる 色こそにしき ならめ おほくの 人たれがみにく からん そのうちにも わけてたちふるまい(立振舞) 心をつけて世の |
にしき貝(錦貝 (1)イタヤガイ科の二枚貝。外見はホタテガイに やや似るが、小形で薄く、殻長約5㎝。表面には とげのある放射肋が走り、主として赤褐色の地 に白色の電光状の模様を具えるが、純白・鮮紅・ 紫・黄など多彩で美麗なものも多い。 本州の太平洋岸の浅海岩礁に産する。 (2)ナデシコガイやアズマニシキの幼若なもの の古名。古歌に詠まれた歌仙貝の一。 |
こきまぜて(扱き混ぜて) かきまぜる。まぜあわせる。 (斎宮貝合) こきませに-いろをつくして-よるかひは-にしきのうらと-みゆるなりけり |
(4) いろ貝 いろいろの 貝ありてこそ ひろハめれ ちくさの浜の あまがまにまに 品々おほき中にて これをとひろいとるなり まにまにハ心まかせ にといふ これハあし彼ハ 見ぐるしと 難をつけ きずをいふハ あしし 物ずきハ おもひおもひ なるべし |
いろ貝(色貝) さまざまの色の貝。一説に、紅貝 (べにがい)の異名という。広辞苑 色貝は、螺鈿の技法の一つで、金箔や彩色により 薄貝に色彩を持たせるもの。歌は単に「色々な貝」 として詠まれている。Wikipedia |
(歌枕名寄 夫木和歌抄)読人不知 いろいろの-かひありてこそ-ひろはるれ-ちくさのはまを-あさるまにまに (歌枕名寄 巻外未勘国外) いろいろの-かひありてこそ-ひろひけれ-ちくさのはまを-あさるまにまに |
(5) ほらの貝 ほらふくミねの 夕ぐれに そこともしらぬ すゞの うわ風 古木いわほ(巌)の うたにかゝり雲 おそろしき深山に そこともしらぬ 難業苦行を おもひつゞけたる うたなり 何の 身もらくなることバ なしとおもひ くらべて つとめ におこた(怠)る べからす |
ほらの貝(法螺貝・吹螺・梭尾螺) (1)フジツガイ科の大形巻貝。殻高40㎝ほど。 表面には濃褐色・紫褐色・白色などのうずら 紋様があり、殻口は大きく、内壁は赤橙色。 ヒトデ類を食べる。わが国南部以南の沿海 に広く分布。肉は食用。ほら。琉球法螺。 (2)ホラガイの大きいものの殻頂に穴をあ け口金をつけて、吹き鳴らすようにした もの。山伏が携え、また軍陣の合図に用い た。ほら。陣貝。 |
(正治初度百首) 寂蓮 やまふしの-ほらふくみねの-ゆふきりに-そこともしらぬ-すののうはかせ (正治初度百首異同歌 夫木和歌抄) 寂蓮 やまふしの-ほらふくみねの-ゆふきりに-そこともしらぬ-すすのうはかせ |
(6) ミやこ貝 ともすれば 恋しきかたの 名におゑる みやこ貝をぞ まづ ひろいぬる といふこゝろをよめる うたなり 芸さへ あれバとてあながちに 旅他国をこのむ べからず 立 はなれては ゆかしさ わすれがたきハ ふるさとなり とぞ |
みやこ貝(都貝)ニシキガイの異称。 ナデシコガイやアズマニシキの幼若なもの の古名。 古歌に詠まれた歌仙貝の一。 |
(斎宮貝合) ともすれは-こひしきかたの-なにおつる-みやこかひをそ-まつひろひつる (夫木和歌抄)読人不知 ともすれは-こひしきかたの-なにおへる-みやこかひをそ-まつひろひつる |
(7) うらうつ貝 あしのもと 葉 かきわけて うらうつ貝を ひろひつるかな 鶴のむれゐる 芦間に貝を ひろふけしきを なり かきわけてと ちからをいれたるハ かりそめの手づさミ(手遊み)も ふところ手してハ なりがたし たゞたゞまめやかに つとむべきにぞ |
うらうづ貝 (裏渦貝)リュウテンサザエ科の巻貝。 直径約3㎝、貝殻は灰白色で円錐形または独楽 (こま)形、周縁に突起があり、下面からみると歯 車状。ふたは石灰質。日本・中国大陸沿岸の磯 に多い。 |
*田鶴(たづ) →鶴(歌語として) ツルの異称。 (斎宮貝合) たつさわく-あしのもとはを-かきわけて-うらうつかひを-あさりつるかな (夫木和歌抄) 読人不知 たつさはく-あしのもとはを-かきわけて-うらうつかひを-ひろひつるかな |
(8)さたへ貝 さたへすむ 瀬戸の いはつぼ(岩壺) いそしき あまの けしき なるかな いそ(勤)しきとはいそがしき のことばなるべし あま(海人)ハ海辺のさもしき 人をいふ これに付ても 下々は の たちゐにくるしきを うへつかた(上つ方)ハあはれと しろしめさる べきなり |
さたへ貝 さたえ・さざい・さざえ・栄螺 リュウテンサザエ科の巻貝数種の総称。また、 その一種。貝殻は厚く拳(こぶし)状、多くは 棘状(とげじよう)の突起があるが、内海産で それを欠くものもある。殻高約8㎝。 |
(山家集)西行 さたえすむ-せとのいはつも-とめいてて-いそきしあまの-けしきなるかな |
(9) 千鳥貝 はまちどり ふミおく跡の つもりなば かひある浦に あハざらめやハ 文字ハ鳥の あしあとより 始れり 詩文 ハ勿論 歌の道 なんどこのまね(真似)人ハ むだことのやうに おもへども かきおく 数のつもりたらバ く(朽)ちせざる につたへてこゝろ しる人にも あふべし |
千鳥貝 (1)チドリガサ のこことか。 スカシガイ超科 スカシガイ科 |
(新古今集)後白河院 はまちとり-ふみおくあとの-つもりなは-かひあるうらに-あはさらめやは あはざらめやも あわないことがあろうか。(いや、きっとあえる) *鳥跡 中国で、黄帝の時、蒼頡(そうけつ)が鳥の足跡を見て文字を考案した という故事から漢字。また、文字。鳥の跡。 |
(10) すゞめ貝 波よする 竹のとまりの すゞめ貝 うれしき 世にも あひにけるかな 雀は竹にとまり 人ハ誠にとゞまる それもさハがしき時ハ いかにせん かゝるおさまれる 御代なればこそ 忠孝のおしへに 身をまかせ侍るハ げにげに うれし よろこバし となり |
すずめ貝(雀貝) (1)スズメガイ科の巻貝。貝殻は厚く斜円錐 状で皿形、長径約2㎝。磯貝。表面に布目状の 彫刻があり、茶褐色の粗毛を密生し、内面は白 色。日本中部以南の浅海の岩礁上に着生、磯浜 に打ち上げられて普通に見られる。(2)シジミの俗称。 |
(西行法師家集) なみよする-たけのとまりの-すすめかひ-うれしきよよに-あひにけるかな (夫木和歌抄) 西行 なみよする-たけのとまりの-すすめかひ-うれしきよにも-あひにけるかな |
(11) いたや貝 あやしくも うらめづらしき いたや貝 とまふ(苫葺)く あま( ならひならずや 金殿玉楼は なつ涼しくて 冬あたゝかなれども 末々ハあつきに つけ さむきにつけて くるしミおほし 笛竹のほそき たるき(垂木)あし(葦)の葉 にて家をふ(葺)きたる 此うたにて 見るべし |
いたや貝(板屋貝) イタヤガイ科の二枚貝。扇を拡げた形で、ホタテ ガイに似、左殻の外面は紅褐色で、放射肋が強く、 板ぶき屋根を思わせるのでこの名がある。 |
*うらめずらし(心珍し 心の中で珍しいと思う。 *とま(苫・篷)菅(すげ)や茅(かや)を菰(こも)のように編み、和船の上部や 小家屋を覆うのに用いるもの。 (新撰和歌六帖 夫木和歌抄)藤原信実 あやしくそ-うらめつらしき-いたやかひ-とまふくあまの-ならひならすや |
(12) あこや貝 あこやとる ゐ貝の からを つミ置て 宝のあとを みするなりけり なしおきたる ことにて 其人の おこなひしるゝ なれば いさゝか のわざも つゝしミ 給ふべき なり |
あこや貝(阿古屋貝) (阿古屋の浦に多く産したからいう) ウグイスガイ科の二 枚貝。形は四角形に近く、やや膨らむ。長さ約6㎝。 殻表は灰褐色、内面は美しい真珠光沢がある。 志摩・能登その他の波静かで水の澄んだ内湾で養殖さ れ、優良な真珠を産する。 ゐ貝(貽貝) イガイ。イガイ科の二枚貝。 殻はほぼ三角形。外面黒褐色で、殻長約13㎝。内面に は鈍い真珠光沢がある。ほとんど全国に産し、外洋に 面した岩礁に足糸で着生する。肉は味がよい。瀬戸貝。 淡菜。イガイ。 |
(山家集)西行 あこやとる-いかひのからを-つみおきて-たからのあとを-みするなりけり |
(13) あわび なべてよの 恋路にいかで うつしけん あわびの貝の おのが思ひを 世の中に 片思ほど かなしき ものハあらじ なるハいな おもふハ ならずのたとへ なげくは さることなり 忠臣賢人の 世にあわぬ いか |
あわび(鮑・鰒) ミミガイ科の巻貝のうち大形の種類の総称。マダカ アワビ・メガイアワビ・クロアワビ・エゾアワビ など。貝殻は耳形で厚く、殻長10~20㎝。 |
○鮑(あわび)の片思い(鮑が片貝であることから) 自分が相手を思うだけで、 相手が自分を思わないことにいう。「磯の鮑の片思い」とも。 この歌の出典不明 (万葉集 古今和歌六帖 新勅撰集 歌枕名寄 夫木和歌集) 読人不知 いせのうみの-あさなゆふなに-かつくてふ-あはひのかひの-かたおもひして (万葉集・ 新勅撰集) 読人不知 いせのあまの-あさなゆふなに-かつくてふ-あはひのかひの-かたおもひにして * かつぐ 潜ぐ(かずく) |
(14) かたし貝 我袖は いつかひかた(干潟)の かた(片)し貝 あふてふことも 波にしほれて かなしきハ ふたつありたる 貝がらの かたしと なりたる ならん よくよく心を 正しくうき名 のおそれあるべし |
かたし貝(片し貝) 二枚貝の離れた一片。 かたつがい。 |
この歌の出典不明 (新撰和歌六帖) さてもまた-なほあふことは-かたしかひ-ならひふしても-なににかはせむ 藤原知家 (夫木和歌集) いせしまや-ふたみのうらの-かたしかひ-あはてつきひを-まつそつれなき |
(15) うつせ貝 波のうつ みしまの浦の うつせ(虚)貝 むなしきからに われやなるらん 世の波風の はげしさにハ 命もむなしく なり は(恥)つべき やとなげきたり その うしなふ べからず |
うつせ貝(虚貝)肉の脱けた空の貝殻。むなしいこと のたとえ。 |
(万代和歌集 続後撰集) 曾禰好忠 なみのうつ-みしまのうらの-うつせかひ-むなしきからに-われやなりなむ (歌枕名寄) なみのうつ-みしまのうらの-うつせかひ-むなしきからに-われやなりけむ |
(16) |