2022/2/1 改訂

目次へ

教訓注解 絵本 貝歌仙 (えほん かいかせん)

 
下巻


西川祐信画  京都菱屋治兵衞版 江戸鱗形屋孫兵衞
延享五年(1748 年)

   原データ
東北大学 デジタルコレクション 
狩野文庫画像データベース
絵本貝歌仙 上巻へ」 


絵本貝歌仙 中巻へ



 (1)
教訓
注解


 絵本 貝歌仙






 (2)
  






  


 (3) 身なし貝
かミ島の
 磯間の
 うらに
よる貝の
身は
いたづらに
なりはてぬ
   はた
 
一生
(きよ)ばかり
にてくらす人
学問芸のふ(能)
なき人は
身なし貝
よりおとれり
まことに
 あさましき
  ことなりとぞ

 ミナシガイ(身無貝)はイモガイのこと。
 イモガイ(芋貝)は、20世紀末頃まではイモガイ
 科の貝類の総称、 21世紀初頭ではイモガイ科の
 うちのイモガイ亜科の貝類の総称、もしくはイモ
 ガイ上科のうち“イモガイ型”の貝殻をもつ貝類
 の総称。
別名ミナシガイ(身無貝)
 (夫木和歌抄)
 かみしまの-いそまのうらに-よるかひの-みはいたつらに-なりはてぬはた





 (4) あさり
いせのうらの 
 しほひ(潮干)
  あさり
 もとめたる 
 かいをぞ
   たもつ
 身をば
   すてつゝ

善事(よきこと)ハ身にかへ
てもなすべし
君の御命(おんいのち)
かわり 親々
の難をひきかへ
たるむかしの
人々は身をバ
すてゝもかいある
名ハ万代(まんだい)
 のこれり

  あさり(浅蜊・蛤仔)
 
マルスダレガイ科の二枚貝。貝殻は卵形で
 殻長約5㎝。肉は美味。日本各地の、内海
 の砂泥中にすみ、潮干狩の主要な獲物。

 (新撰和歌六帖葉室光俊
 
いせのあまの-しほひにあさり-もとめたる-かひをそまもる-みをはすてつつ



 (5) しほ貝
伊勢の海の
 うらのしほ貝
 ひろふてふ
あまりに
   袖の
ぬれて
  かわかぬ

あしきことハもちろん
たとへよき事も
一事(ひとこと)をのミ
うちひたりてハ
袖も波路に
(朽)ち くさるならひ
よろづよきほどに
しなら
(為習)ひたまへ
(たゞ)々忠孝の
ふたつにハしあき
(為飽)
いふことなかるべし
*潮貝。海に住む貝類の総称。 この歌の出典不明
 (古今集)紀貫之
 いせのうみの うらのしほかひ ひろひあつめ とれりとすれと-と-たまのをの


 (6) 物あら貝
たのもしな
 ものあらがい
(物洗貝)
つきぬべき
(のり)
 はちす
(蓮)
うらにすむ身ハ


今生(こんじやう)にて善を
なすひとハ後生(ごしやう)
にて(はちす)のうへに
たのしミおほき
こゝろをよめる
 うたとなり
 物あら貝(物洗貝) 
 モノアラガイ科の淡水生巻貝。カタツムリと
 同様、空気を呼吸する有肺類。殻高約2㎝。
*この歌の出典不明
 (後撰集) 読人不知
 はちすはの-うへはつれなき-うらにこそ-ものあらかひは-つくといふなれ

 (新撰和歌)藤原 知家
  はちすはに-ものあらかひの-なかりせは-つゆをたまとて-みるへきものを



 (7) かたつ貝
たのミつる
  人はなぎさ
(渚)
   かた
(片)つ貝
あわぬに
   つけて
 身をぞ
 うら
(恨)むる

しあわせ
あしきものハ
世をうらミ
身をなげき 
(ひと)
 とが
(咎)むること
 なかれとの
   うたなり
*かたつ貝(片つ貝) 二枚貝の片方の貝がら。
 かたしがい
* (新撰和歌六帖) 藤原知家 (409)
さてもまた-なほあふことは-かたしかひ-ならひふしても-なににかはせむ
   (夫木抄)         
いせしまや-ふたみのうらの-かたしかひ-あはてつきひを-まつそつれなき
            



 (8)  あし貝
うなばらや 
 波にゆらるゝ
  芦貝(あしがひ)
 かいある国と
  なれる
  かしこさ

混沌と
わけもなき
泥の中 
天地(あめつち)
わかりて
より あし
原の島
おこりぬ
これを
めでたき
国のはじまり
   といふ
 あし貝(芦貝)
 よし貝。シオサザナミガイ科 の二枚貝。
 殻長3㎝。
 (新千載集) 
 うなはらや-なみにたたよふ
-あしかひの-かひあるくにと-なれるかしこさ



 (9)   みぞ貝
()(よど)
 溝貝(ミぞがい)
    ひらふ
 うなひ()
たわふ
(戯)れに
     だに
 とふ人も
    なし

 世にすてられてハ
 たれとふ人も
なきこと むかしも
今もおなじさま
なり いせい
(威勢)ある時より
かねがねすてられぬ
  ように
   心得
   べき
    ことなり
 みぞ貝(溝貝) 
 マテガイ科の二枚貝。貝殻は薄く、長楕円形
 で平たく、殻長約4㎝。すみれ色で、内面に
 一条の内肋がある。日本沿岸の砂底に産する。
 カラスガイの古称。
*江の淀に 入江のよどみで
*うな‐い(髫髪)子供の髪をうなじで束ねたもの。また、子供の髪をうなじのあたりで
  切り下げておくもの。

 (散木奇歌)
 えのよとに-みそかひひろふ-うなゐこか-たはふれにても-とふひとそなき

 (夫木和歌抄) 源俊頼
 えのよとに-みそかひひろふ-うなゐこか-たはふれにたに-とふひともなし



 (10)  はまぐり
今ぞしる
 ふたミの浦の
はまぐりを
 貝あわせとぞ
 おもふなりけり

一郷(いちごう)物識(ものしり)
いわれて本草(ほんぞう)
しや
(者)とたかぶる
田舎学者は
あさまし 諸国
を聞かめぐりて
こそ さまざまの
ことハおぼゆるなり
西行が今ぞ
しるとて固陋(ころう)
をはぢたるは
しゆしやう
(殊勝)なる
上人(しやうにん)たつと
(尊)むべし

  はまぐり( 蛤・文蛤・浜栗)
  マルスダレガイ超科 マルスダレガイ科の
  二枚貝
*ふたみの浦(二見ノ浦)三重県度会(わたらい)郡二見町海岸の名勝。東端に
 夫婦岩(めおといわ)がある。ふたみがうら。
*固陋(ころう) 見聞が狭くてかたくなであること。


 (山家集 夫木和歌抄)西行
 いまそしる-ふたみのうらの-はまくりを-かひあはせとて-おほふなりけり



 (11) しゞみ貝
しゞミとる
 かたゝの浦の
  あま人よ
こまかに
  いはゞ
かいぞ
 ある
  べき

 
万事丁寧に
くわしきを
(よし)とすわけて
文字のことは
こまかにまなび
なら
(習)ひなば
稽古のかい
(甲斐)
 あるべき
    なり
 しじみ貝(蜆)ヤマトシジミ  マシジミ  
 セタシジミ
 シジミ科の二枚貝の総称。殻長2~3㎝、暗褐色
 または漆黒色、内面は多少とも紫色を帯びる。
 淡水または汽水産。
*かたた(堅田)(カタダとも)滋賀県大津市、琵琶湖南西岸の地名。
*こまかにいはゞ 細かに岩場

 (為尹千首 (ためまさせんしゅ) 飛鳥井雅縁(あすかいまさより
 ししみとる-かたたのうらの-あまひとよ-こまかにいはは-かひそあるへき 



 (12) こがい(小貝)
伊勢のうミ
 きよき
  なぎさ
(渚)
   駒とめて
都のつとに
  小貝
   ひろわむ

 
いせの海の
きよらなる
水かゞミに  
駒をうつして
ひら(拾)いたる
小貝との歌の
正風躰(しやうふうてい)
よろづに
(よこしま)なき
神の
おしえと
すべし 
 *こがい(小貝) 小さな貝
 *正風体  正しい典雅な風体。特に、歌学上、伝統的な雅正な歌体。
 
 この歌は下記の古歌を本歌取りしたものか。
 (御室五十首生蓮(源師光  夫木和歌抄)
   いせのうみ-きよきなきさに-こまとめて-みやこのつとに-こかひひろはむ

 (催馬楽-伊勢の海) 
 伊勢の海の 清き渚に しほがひに なのりそや摘まむ 貝や拾はむや 玉や拾はむや
 (源氏物語 明石の巻)
 伊勢の海ならねど 清き渚に貝や拾はむなど、声よき人に歌はせて・・・  
  



 (13) ちくさ貝
君が代の
 ためしに
   見ゆる
  (なが)はまに
千種(ちぐさ)の貝の
数もつきせじ

絵にうつし
(ふミ)につゞけて
つきせぬ浜の
まさごとは
しきしま
(敷島)
君がミち
あほくも
おろかなる
わらハ
(童)
ために
かきつゞけ
  侍りぬ

 ちぐさ貝(千種貝)
  ニシキウズガイ科の巻貝。円錐形で小形、
 殻高約
1.5㎝。赤・黄・樺などの美しい色彩
 を持つ。奄美・沖縄諸島を除き全国に分布。
*ちぐさ貝 千種貝 いろいろな貝の意。 
 (斎宮貝合 )
 きみかよの-ためしとみゆる-なかはまに-ちくさのかひの-かすもしられす

 (歌枕名寄
 きみかよの-ためしとみゆる-なかはまの-なきさのかひの-かすもしられす
*浜の真砂 浜辺にある砂。数多いたとえにいう語。
*敷島 大和国の別称。日本国の別称。「敷島の道」の略。つまり
 (日本古来の道 の意から) 和歌の道。 



 (14)
 
画図 皇都 西川自得叟祐信
   洛陽 彫刻師 丹羽庄兵衛


嗣出 貝歌仙後編
 
  絵本狂歌貝
     全部 三冊 西川氏画
  絵本 歌庄子
    全部 三冊 西川氏画
延享五年 
 辰正月吉日
    東都書林 大伝馬町三町目
        鱗形屋孫兵衛
    京都書林 寺町通松原上ル町
        菱屋治兵衛版





*延享五年 1748年

   


目次へ 

 「絵本貝歌仙 上巻へ」 

 「絵本貝歌仙 中巻へ」

ページの最上段へ 
                    
                 



 (注)本文中の和歌についてその出典と作者が明らかな場合は注に出典と作者名
    を記した。また本歌取りと思われる歌はその「本歌」と出典、作者名を
    記したが定かでない。

    和歌検索  
国際日本文化研究センター 
            和歌データベース

    貝名    微小貝データーベース 山田まち子氏HP            
    参考    三十六貝歌合 Wikipedia
          デジタル大辞泉 
   
翻刻に際しては古文書研究家一青氏、千葉の渡辺氏にご協力を頂きました。
   厚く御礼申し上げます。