2021/10/28 改訂 目次へ 表紙へ |
禿帚子著 石川豊信画 原データ 東北大学付属図書館狩野文庫画像データベース |
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(1) 絵本 明ほのくさ 中 |
(2) 果報は寝てまて これハどふした たとへやら ねてまちてハ 果報は いかさま せ(急)きてハ ことを しそん(為損)する もの也 |
○果報は寝て待て 幸運は人力ではどうすることも できないから、あせらないで静かに時機の来る のを待て。 ○待てば甘露の日和あり *いか‐さま(如何様)どのよう。 ○急いては事を仕損ずる |
*挿絵の男(侍)は算木(さんぎ)と筮竹 (ぜいちく)とを用いて吉凶を占っている 図。筮竹は易占に用いる、竹を削って作 った長さ約40㎝の細い棒。ふつう50本。 床の間には武具飾り。 |
(3) 浅ひ川わたる 子にをしへられて よきことも あるべき なれとも ふじゆふなる たとへならすやと 申ければ こたへて いふよう 浅ひ川わたれ かくいふ事を いゝあやまり たるかと おほゆ |
○三つ子に習って浅瀬を渡る | ○負うた子に教えられて浅瀬を渡る 時には、自分よりも年下の者や未熟な者から教 えられることがあることのたとえ。 |
*挿絵は川岸で鍬を持つ年寄りから川 渡りの注意を聞いて浅瀬を渡る女二 人連れ。 |
(4) 虎狼より これハどふした たとへやら 家の 内へあめの もるハ なんぎなりと いふべきに おそろしくとハ いぶかし こたへていわく 虎狼より 国のもり 貴人のもり いつれ もりハ おそるべき もの也 柳塘 暗 一鏡 |
○古屋の漏り 動物昔話の一種。一軒家で、爺さん と婆さんが雨の夜に唐土の虎より雨漏りが恐ろし いと話しているのを虎が聞いて、逃げて行ったと いう話。 東洋、日本で広く分布している。また、秘密がも れることは恐ろしいという戒めにもいう。 左挿絵の屏風の書 春月 呂中孚 (りょちゅうふ) 柳塘 漠漠 暗啼鴉 一鏡 晴飛 玉有華 好是 夜欄 人不寝 半庭 疎影 在梨花 |
○虎狼より漏るぞ恐ろし 虎や狼より古屋の雨漏りのほうが恐ろしい。 また自分の秘密が世に広まるほうが恐ろし い。 ○虎狼より人の口恐ろし 凶暴な虎や狼などからは逃げる方法もあるが、 悪口や讒言(ざんげん)などからは身を守り 方法がない。 |
*挿絵は幼い継嗣に傅(かしず)き世話 をする乳母や守り役の家来達。国のも り・貴人のもり・小児のもりはおそれ る(恐れる・畏れる・怖れる)べき。 |
(5) かへられぬ 背も腹も 同じわが身の 中なるに どふしたことの たとへやらんと とひければ こたへに 町家の いましめ をしへを 世の人の いゝあやまりたる やらん 万覚帳 金銀入帳 大福帳 |
両替屋 銭屋。掛屋。 両替屋は金銭売買・貸付・手形振出・預金なども 扱った。江戸では金銀両替および金融業務を行う 本両替(16人)、専ら小判、丁銀、および銭貨の 両替を行う三組両替(神田組・三田組・世利組) および銭貨の売買を行う番組両替(一~二十七 番)に分化していった。三組両替および番組両替 には酒屋および質屋などを兼業するものも多か った。Wikipedia |
○背に腹はかえられぬ 同じ身体の一部でも、 大切な腹は背と同じに扱ってとりかえるよう なことは出来ない。 腹を守るために背を犠牲にしてもやむを得な い。大事のためにはやむをえず他の犠牲をは らうことにいう。 |
*挿絵は両替商の店内。針口天秤(はり ぐちてんびん)(両替天秤)がある。 側に寛永通宝一貫文と煙草盆。算盤。 |
(6)* (一丁落丁あり) 釣 といふことの たとへながら かづかづならば 鐘と釣 あふまじき ものにも あらずと (*以下落丁部分) [申ければこたへて かやうにいはゝ いつれ ふとりあい(太り合い) なる事にあらんか] (以下落丁部分) [竿のさきに鈴 さハがしきことの たとへなれども 是にハかきるべからず おかしきたとへと申ければ] こたえていわく 貴人御入と ざゝめき 作法の 事ども下ざまの 馴ぬ事 いとさハがし |
○竿のさきに鈴 口喧(やかま)しく騒々しい こと。人が、多弁なこと。 *ざゞめき‐ごと「ざざめく」は騒がしく声を 立てること。 |
○提灯に釣鐘 形は似ているが、軽重の差が甚 だしく、くらべものにならないこと。 物事のつり合いがとれないこと。縁談などにいう。 *太り合い 月の満ち欠けと、ちょうちんの伸び 縮み。 |
*落丁部分について 東北大狩野文庫にはこの部分に一丁落丁があります。 ことわざ研究家北村孝一氏から次のご指摘がありました。 「絵本明ぼの草」(明和七年)出版以前に、文章も挿絵も殆ど同じ絵双紙が2種存在したとのこと。 ①「絵本千代春」(ちよのはる)(国会図書館所蔵)刊記はないが、明和六年刊と 推定される。 ②「絵本集草」(国会図書館所蔵)の「たとえ尽し」(絵本集草として合綴した際 の題箋で仮称) 東北大狩野文庫「明ぼの草」中巻の落丁部分が「絵本千代春」 (国会図書館所蔵)に掲載されて いることが分かり、資料のご提供を受けて落丁部分の翻刻文を掲載しました。
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(7) 鬼の女房に 似合たる 夫婦を 見て いふこと なれども かくおそろしき たとへにハ およぶましと 申ければ こたへて 王位の女房に 貴人かなる いにしへの式部 むらさき 和泉 赤染 伊勢の たぐひならんか 今もまた ありなん |
*紫式部・和泉式部・赤染衛門・伊勢等の類。 |
○鬼の女房に鬼神がなる 鬼のような男には鬼のよ うな女が妻になる。似たもの夫婦。 |
(8) 何のやくにも たゝぬといふ たとへなれども あまりつたな(拙)き 事 こたへて 九位にも八位にもならぬ かづならぬと いふたとへ いゝあやま(誤)りと おほゆ |
*数ならぬ 物の数ではない。とるに足りない。 |
○箸にも棒にもかからない ひどすぎて取り 扱うべき方法がない。手がつけられない。 *九位 八位にも .大宝律令の位階制(701年 制定され1868年まで続いた。八位までで九位は ない。 ○人でも杭でもない 人間どころが棒杭にも劣る 者である。恩義をわきまえない人のことをのゝしっ ていう。一説には「杭」は九位」で、最低の八位の まだその下に意で人を卑しめていう。 |
*挿絵は駕籠から降りた貴人と刀持ち。 付き添う侍。駕籠舁きと駕籠。 |
(9) 壁に 急なことの たとへとハいゝながら かべにのり かけることハ よもあるまし 急なことハ 一の谷の さかおとし 馬のりかけたと いふべし |
*一の谷 神戸市須磨区の、鉄拐[テッカイ]・ 鉢伏(はちぶせ)の両山が海岸に迫る地域。 北に鵯越(ひよどりごえ)がある。 1184年 (寿永3)源義経が平家の軍を攻めた所。 |
○壁に馬を乗りかける だしぬけに行動を起こして、無理押しをする 意のたとえ。または無理に、押し通そうとする たとえ。 |
*挿絵右頁武将は源義経か。左頁大柄 な武者は武蔵坊弁慶。(弁慶の)七つ 道具を背負っている。一ノ谷合戦。 |
(10) 身をおもふ ゆへに 君をおもふ とハ 不忠不義の こゝろざしなり かやうのたとへハ 世の中の 害にて候 君を思ふて身をおもへ 君をおもひ 親をおもひ 短気を いださず 身を大せつに もつべき との たとへなり |
○君を思えば身を思う ひたすら主君のために仕 えていると、結局は自分を大切にしているのと 同じことになる。 |
○君を思うも身を思う ○君を思うは身を思う 主君の思うのも、結局は我が身が大切の故 である。主人のことを大切にするのも、結局 は利害のつながる自分の身がかわいいからで ある。 |
*挿絵は川端で裃姿の侍に詰め寄る 男達(刀の柄に手をかける侍2人と 威嚇する奴風の2人)とそれを見る 女性。 |
(11) くさりたる 縄ハすさにも なるまじと いへば 答て 絵の ごとし |
○腐り縄ににも取り所 ○腐り縄にも用がある 捨ててしまうようなつまらぬものも、使いようで 役に立つというたとえ。 *すさ(寸莎) 壁土にまぜて亀裂を防ぐつなぎと する繊維質の材料。普通、荒壁には刻んだ藁(わら)、 上塗りには刻んだ麻または紙を海草の煮汁にまぜて 用いる。壁すさ。すさわら。つた。すた。 |
*挿絵は籠の鳥の世話をする若い女性。 縁側にすり餌用の擂鉢と擂粉木がある。 |
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