序
文に日く、1浮世ハ夢の如し。歓をなす事
いくばくぞやと。誠にしかり。金々先生の一
生の栄花も2邯鄲のまくらの夢も、
ともに粟粒3一すひの如し。金々先生ハ何人と
いふことを知らず。おもふニ4古今三鳥の
伝授の如し。金ある者ハ金々先生となり、
金なきものハ5ゆうふでく6頓直となる。さすれハ
金々先生ハ一人の名にして壱人の名ニあらず。
7神銭論にいわゆる、是を得るものハ前にたち、
これを失ふものハ後にたつと。それ是これを
言ふかと云云。
画工 恋川春町戯作
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(意訳) 序
書物に曰く「浮世は夢の如し。
歓びをなすこと幾ばくぞや」。
本当にそのことわざの通りである。
金々先生の一生の栄花も、邯鄲の枕の夢も、
ともに 粟粒一炊(の夢)と同じようなもの
だ。金々先生がどういう人かは知らない。
考えてみるとあのわけのわからない古今三
鳥の伝授のようなものだ。
金ある者は金々先生となり、金のないもの
は田舎者のとんちきとなる。であれば金々
先生は一人の名にして一人の名ではない。
神銭論にいうところの「金を得るものは人
前に立ち幅をきかす。金を失う者は後ろ
に居る」と。
それやこれ。ここまで云うかという話だ。
画工 恋川春町戯作
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