▲闔閤とは奉行所の下役也。科人を搦捕
などする者也。
▲賦とは問注所にて事を問ひ究めるたる趣を認め
し配賦也。
▲闔閤重賦之は下役人を重ねて問注所の配賦
を公事掛りの諸役人へ賦るをいふ。但し此の五
文字を古来割注のごとく小書きすることは其の謂
なく、そのかみ書き落としたるゆゑ傍らに小書き
せしを伝写し誤り来たれるものなるべし。
*賦別奉行 鎌倉・室町幕府の職名。
訴状を受け取って、年月日および氏名を記し、引付方各
番へくばり分けることをつかさどる。賦奉行。
▲執筆は書き役也。
▲問状の奉書は訴人の相手方へ事の訳を尋問はるゝ
状にて即ち訴人へ賜る也。今の裏印をいふ。
*問状鎌倉・室町両幕府で、訴訟の場合
に被告・証人などに対し答弁を求めるために出した
御教書または奉書。
▲無音。爰には訴人の相手方一向に問状の奉書に
応ぜざるをいふ。
▲使節は使ひ番を主る役人也。
▲召府。爰には相手方を召し寄せらるゝ指紙也。昔は
すべて使者を遣わすに皆割符をもたせたるもの也。
爰は人を召す使ひゆゑ召府といふ。割符の
事は四月の状に見ゆ。
▲散状は問状をもなげやりにし、又紛失したるをいふ。
▲召進。爰は召府の使者相手方を召出し進ずるをいふ。
▲違背。爰に相手方が上の仰せに背くをいふ。
▲三問三答は初めて出す訴状を初問とし其の答えを
初答といふ。此のごとく凡そ三度訴人と相手方と
互いに問答の答えを番ふをいふ。陳は相手方の
言訳け也。
▲雌雄の是非は公事の勝ち負けをいふ。
雄と是は勝ち方、雌と非は負け方也。
▲永代沽券は田地屋敷など売渡しの証文をいふ。
▲安堵年記の放券はすべて質物等の証文をいふ。
是年限を定めて物を預くる手形也。其の年の中は
其の元の安堵といふ意か。
▲奴婢雑人の券契は奴隷婢女 など下人
を召抱ゆる証文也。
▲和与状は和睦の取替せ証文也。
▲負累は古き債の証文也。
▲管領寄人は執事の下国也。
▲評判は事の條を論じて是非を判つ也。
▲差府方の与奪。差府方は他の所へ差し替えらるゝ
事なるべし。与奪は其の職を代わるの義。
▲当参の仁は訴え出る者をいふ。
▲下国は相手の者国元に下がり居るをいふ。
▲書下奉書共に問状の事也。
▲探題は鎌倉将軍久明親王の時、永仁三年鎮西中国
の探題を置れしより始まる。北条の頃、両六波羅
を京都の探題と云へり。即ち今の所司代なり。
*探題 鎌倉・室町幕府の、一定の広い地域の政務・訴訟・
軍事をつかさどる要職の通称。鎌倉幕府では(東国の)執権・
連署、西国・九州の六波羅 探題・鎮西探題、室町幕府では
九州探題・奥州探題・羽州探題の類。
▲謀叛は六月の進状に見ゆ。国家を乱さんとする
考え也。
▲強窃二盗は日中 あらはに狼藉して奪ひ捕る
を強盗といひ、人を忍びて密かに盗むを窃盗といふ。
(六月進状)
▲打擲は棒などにて人を打ちたゝくこと。
▲蹂躙は人を蹴倒しふみにじる也。
▲勾引は「かどはかし」也。*誘拐
▲狼藉は爰には途中にて暴ばるゝを云う。辻きり
の属也。
▲闘諍喧嘩はいさかひわめき合うこと。
*検断 中世、警察権・刑事裁判権のこと。また、それを行使
すること。
▲所司代は今の代官の属。
▲小舎人下部は今の与力同心の下司。
▲言色体は言葉と顔色と容躰とも三ツをいふ。
実ならざる者は此の三ツのもの転動して正しき
事をことを得ざる也。
▲犯否は罪を犯したると犯さざるとをいふ。
▲召籠は入牢せしむるをいふ。
▲推問は罪を犯したる意趣を推し尋ぬる也。
▲拷問・拷訊は共にたたき責めて、強く尋ぬるをいふ。
▲断罪は死刑也。
▲禁獄は牢舎へ入るゝ也。
▲流刑は遠島へ流し遣る也。
▲流帳は流刑等究りたる者を記し置く帳面也。
是は一人ずつ行われたる刑ゆゑ流人の数
の充までヶ様にすることなり。
▲火印は科人の額に焼きがねをあつること。
今の黥の類なり。
*与同 同意して力を貸すこと。また、仲間
に入ること。
▲本所は寺社奉行の役所也。
▲挙達は執り挙るをいふなるべし。許容也。
▲越訴は次第を越て上に直に訴訟するをいふ。
▲覆勘は奉行の勘判を覆ふといふ意か。
爰にいふ奉行は寺社方 なれば其の道に越度なきを以て
私意立がたきゆゑ直訴を遂るものにや。
▲庭中は御前の庭をいふ。
*この文章即ち「次に寺社~庭中に奏す。」の書下文は「庭訓
往来諺解」に随う。
▲家務は国家の政務をいふなるべし。
▲恩賞は褒美の沙汰をいふ。
▲方法規式は法度掟の定式也。
文意
別義なきまゝ無音に過る。粗略のほどを侘び思ふ折
から、芳問給はり本望。満足て悦び限りなし。世上
静かに治ること諸人一統の幸慶也。
よつて御沙汰事も厳密に執(手偏+丸)行せられ、
政道最速なり。其元訴訟の公事若悠々 に緩怠
せば、はるばる上京せられし甲斐なきぞ。
機転の計略を構へ、先ず筆状を代人へ渡されなば、
御前参訴の始末を指図いたし、奉行人へ賄賂以下
政道の私事(密事))など心得のため折りを以て申
聞せん。譲状の謀実(以下文書の公事は
吟味方の捌を受られよ。諸役人の衆中政務
のために日勤して休息ことなく公事の裁判
をせらる。訴状を捧ぐる者、何れは其の趣を役所
より触れ渡され、執筆問状を訴人に与へらる。
然るに相手方取り敢えずして、又訴状を捧ぐるとき
は、上より召府(指し紙・差し紙)を以て召寄せらる。
夫れにても猶参らざれば、詮議に及ばず。訴人方へ
捕公事の下知を伝へらる。又相方召しに
応じて参りたるには訴状を封じて下され、訴人と
問答させ御前にて其の理非を決断し、法に任せて
其の口書(供述書)を撰び分け、引付の議定
に就いては、各仕置せらる。
問注所の沙汰は、永代沽券以下文書
のことを糺さる。是爰に管領寄人右筆奉行人
達の評し別たるゝ所也。
奉行人入代わりて裁断するには訴状に書下をなし与え、
相手外国あらば奉書を下さる。然るに無音してして参
らざれば、使者召文を遣わして呼びよせ、訴人と
相手の口書き(供述書)を調へ、其地の諸役人と
問答し。
其の沙汰を披露て、探題の異見に就き下知せらる。
侍所の沙汰は、謀叛盗賊の族をつかさどる。
管領執事奉行人其の科の軽重を稽へ刑法を決断
せらるゝことにて斯々の犯人ありと所司代より
右筆へ訴状を出さるれば、下司、犯人を捕へ来
つて侍所に引き居ゆ。
役人衆其の申す口を書取り糺明て、罪ある
に極れば、牢におしこめ其の罪を犯せし訳を
責め問ふて白状させ、同類一味の者あらば悉く
披索め、或いは死刑、禁獄、流罪、或いは火印、
追放以下其の罪の大小と其の者の是非に
随つて行はる。
僧籍神職の一件は寺社奉行の挙達に就いては是非
を決断せらるゝ也。奉行の手を越えて直訴する者
は探題管領の譲りを受けて、奉行人取捌き裁許の
旨を上へ申上げるなり。
凡て政道の褒美を行はるゝ方法、規式、数多にして
一々書取らぬから洛へ参勤せらる節申し入らん
となり。