2017/10/26 改訂 目次へ 表紙へ |
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「好色青梅」四巻から次の四話を掲載。 (一)女ハ髪のめでたいえにし (二)是皆 (三)垢の抜けたるへちまなりけり (四)物の不思議も是よりぞ知る (五) 著は 浮世草子。好色本。艶本。十四丁半・挿絵22cm・墨摺絵本。 浮世草子は井原西鶴の「好色一代男」(天和二年、1682)によって仮名草子と一線を画して 以来、宝暦・明和頃まで約八十年間上方>を中心に行われた町人文学で、この本は 江戸時代初期頃の裕福商人らの享楽的・娯楽的な生活を描いた好色物の一冊。 |
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①原文は殆どひらがなで書かれていますが読み易さを考慮して適宜漢字に直し、 また濁点を補いました。 ②カタカナの表記の「ハ・バ」などの助詞は原文のままに表記してあります。 ③会話文には「 」をつけました。 ④一つの題名に別の話が挿入されている場合は(派生噺)番号①②と記しました。 ⑤改行はほぼ原文のままにしました。 ⑥釈文は画像の下側の左右に、「注」は釈文の下に掲載しました。 翻刻に際しては古文書研究家羽生榮氏と福岡県在住の松尾守也氏に御協力を頂きました。 |
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(2) 1△女ハ髪の目出度い 2性ハ道によつて賢しとハ。 たる 昨日今日まで 三になれバほんの殿事を始めけんがくあぢを まで言ひ出して指をくわへさし おのこ子ハ せぬに。「俺ハ正月より盆がうれしい」と言ふ。「それ なぜ」と問へバ。「盆にハ夜出て女の子どもとまじ り。 |
1△女ハ髪のめでたいえにし 徒然草九段 「女は髪のめでたからんこそ」の引用か。 |
(3)是皆順逆の二つを別つ 覗いているのは息子の父親(5-2頁の挿絵) |
鼻紙つぶしの息子・的之助(陰間)・息子の嫁 |
(4ー2) 寄れ」といふ。娘聞きて、「最早ふとんが外れて 寄られませぬ」と答ふ。「さらバ外れぬやうに身 どもが寄ろふ」と言ひて。娘の 口切の ほども口の かゝりでハさばけぬ。 の つけて。手に汗を握りよせ 4あだけぬ5しかミ顔して。はづミにはづさんと へど。何か 動きがとれず。ふかき |
(4ー1) と言へり。此やうに 々たり。ある人、歳十七にて十三になる娘を 「こちへ寄りませ」と言へど。 々濡れ言葉に。 なを寄らされば。おとこ息 れがいやらしうて寄りたむないか」と問いけれバ。娘 「あゝいやでんす」と。味も塩もなき程に。おとこ 「そなら、まちつとそちへ寄りや」と言ふ。これハ 「 |
1懐(ほゝ) ふところ 2初昔 茶の銘。江戸時代、将軍家使用の極上の宇治茶。 3嗅茶(かぎ‐ちゃ)飲まずに、茶の香気を嗅いで良否を鑑別 すること。 また、その茶。聞茶(ききちや)。 4あだけぬ 徒げぬ 5しかみかお(顰顔) 顔をしかめること。. |
1旧故 ふるいなじみ |
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(5-2) |
(5-1) られぬ。此夜小枕まで相伴にあふて われたり。 いまだ十六七でかやうの分別の味 なことが出たことやと。はなしを聞くから。その おとこの △ ある人鼻紙つぶしなる いと 又最前より 小者に りに 女、妬ましく思ひけり。ある夜男、また |
1陰間 江戸時代、まだ舞台に出ない少年俳優の称。また、宴席に侍して男色を売った少年。陰舞(かげまい)。蔭子。男娼。 2御汁・御付 おつけ 吸物の汁。みそ汁。おみおつけ。 3ねこわけ 食物を少しずつ残すこと。猫が食べ物を少し残しておく 習性から猫分け。 *派生噺 |
女は髪の目出度い縁 4-1・4-2頁の挿絵 新枕の場面 |
(6) 遊びし人の語りけるハ。かの若衆とまじわり 見るに。こなたの潤ふ時分に。なるほど若衆も 耐へ難きふりをするなり。これその道理なきわけ。 また浮かれ女とまじはり見るに。こなたの面白 くなる時も。まことにきよろりか、しじねぶりたる 顔している。たとひ、面白くなくとも乱るゝ 気色するが道理なれば。これも又さもにくし。 △垢の抜けたるへちまなりけり 1久米の |
1久米仙人の伝説に因む 久米仙人 俗に久米寺の開祖と伝える人。 大和国吉野郡竜門寺に籠り、仙人となったが、飛行 中吉野川に衣を洗う若い女の脛(はぎ)を見て通力を 失い、墜落した。都造りの材木運びに通力を取り戻し、 賞に免田三○町を得て久米寺を建てたという。 今昔物語集・徒然草などに出る。 2ゆぐ 腰巻き |
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(7ー2) 機をたらいの脇から見とれいて。腰の を人の抜くも知らで通宝を失なひ。お好き女郎 ハつけ松茸のつぼミをにぎりて、そゞろに舌 をによろめかし。 濡れしことも覚へず。されば女のよれつ、もつるゝ いとごしにハ、大尽たちも馬をつながれ。 男のもちあたゝめし。大和双六の いかな女中も恋目を召さるゝとなん。*ある片里 に 美しかりしかバ。見る人心を痛ましめ。聞く 人思ひをついやす。 |
(7ー1) かし。「ほんに 男の曰く。「1 沙汰や。 裏にも表の味に優れたる所あり。劣りたる 所あり。表又しかり。」 すましたる 装い変はつて。「すれば かくにもねぢけ人。添ひまして面白からず。「此上ハ なりしを。*この男の親父物陰より |
3聖立つ いかにも聖らしい振舞をする。 *派生噺② |
1洒落臭い なまいきである。 2○児手柏のふた面(おもて) 児手柏(このてがしわ)ヒノキ科の常緑低木。 (児手柏の葉の表裏のいずれとも定めにくいことから) 両面・両様あること。 古能手佳史話 (このてがしわ) 艶本 裏表此手佳止話(うらおもてこのてがしわ) 好色外史( 花笠文京 ) 作・渓斎英泉 画 天保7年 *派生噺① |
(8)垢の抜けたるへちまなりけり 9-1・9ー2の挿絵 隣の男 比丘尼と下女 |
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(9ー2) の折よく ぎりて。(比丘)「あな心地にくや」と下女と手に手をしめ あい。最早忍び難くなれば。「なふ、となり様。お背 中流してまいらせんや」と言葉をかくる。男 おびへて「誰なるらん」比丘ハ世の常の人ならず と聞く。さてハ召使いの女房なるべし。よしや 誰にも荒磯の打ちかくる浪のかへり言葉 にと得た様ぞ。「 こなたへ来ましぞへ。 つ流されつすべし」と答ふ。比丘もじハ世に なき心に嬉しくて。裸になり、たらい |
(9ー1) |
(10-2) まいらせ。自ら人差し指を折かゞめ。露命を 来るほどに。これ のとばしりなるべし。此下女、口のうちにて何 やらんつぶやくを聞けば古歌なり。 しづくにぬるゝ身をいかにせん △物の不思議も是よりぞ知る あたらしきことの て住める後室あり。金銀財宝に悲しむ事 あらざれど。あまたの子に憂へを見。今末の 子ひとりを |
(10-1) の中へ押入り。(比丘)「1冷へ者 いふ。(男)「こハ思ひもかけぬ御方や。2いざさらば様 から流して参らせん」と。たらいのかわに手杖 をつかせ。 と差し入るゝと。 く。湯の中でふわりふわり持ちあぐれば。うへよりハや わらかにこすりをかくる程に。からこの かすの一番汁よりも 流し。たらいもなくぞ 々腰湯のたぶたぶありとうけ給る。下女ハ とろとろ目ざしのあをミいり。此ありさまを見 |
3岩代の森のいはしと思へとも雫くに濡るゝ身をいかにせむ (後拾遺集 巻十四:恋四 恵慶法師) 岩代 紀伊国の歌枕 岩代の森ではないが思い心を口に出して言うまいと思うけれ ども森の木々の雫、涙の雫に濡れるこの身をどうしたらよい だろうか。(岩波 新日本古典文学大系 後拾遺集) |
1○冷え物でござい。 江戸時代、銭湯の浴槽へ入る時の挨拶語。身体 が冷たいが御免なさいの意。「冷え物御免」とも。 2○いざさらば さあ、それなら。 |
物の不思議も是よりぞ知る 11頁12頁の挿絵 めくら御前と男。 覗いているのは乳母か |
(11) |
(12-2) (めくら御前) 「あゝしたゝない殿やなん」と言ひて戯るゝ。 ハ通り者にて。「なふ御前もじ、さすり寝入り に寝せましてから、こちへござれや」と言ひすて。 女房共を具して寝屋を立出る。さてこそ かにこと 両眼をなづるとひとしく。1 けて明白なり。各々きたいの思ひをな すこと、きハまりなし。後室ハ有難き事に 思ひ。これ深き縁の |
(12-1) 箱を のもとにめくら御前、女房どもあまた打寄りて 遊びありし頃。息子ハ の さすりまいらせ。かのめくら御前も見舞 らふて。おぐしのあたりを撫でまいらせんやと 追従す。甘やかし子ハ聞て。「わ御前ハ歳 若く手も猶しなやかならん。こすりてえ させよ」と言ふまゝ。 へそのあたりを。その下をといふより。しのび 笑ひになりて濡れの汗、 |
1須臾(しゅ‐ゆ)。しばらくの間。 |
(13-2) 的の助が てほなりを窺いしが。既に早やよいことはじ まると聞えしかバ。女ハ唾をすゝり心地潤ほふ まゝに。覚へず知らず、はづミかゝつてうしろに あんたることぞ。次々をやるか。ゆるせ身ども ハ1 2 に思へども。そさまの心裏付きゆく、かく表 だゝぬ御仕振り。此やうな訳からたつて。的の助 までが自らを。 |
(13-1) かの者の垂乳根をよびて。息子と夫婦の 契約を定め。 まなべるが、又人に越えたるよし。奇妙なること ならずや。聞伝、1 並びなかりしかど。生れつきて。歯一枚もな かりしが。帝王に目見へ初めて 俄に。歯ことごとく、備はりたりと侍れバ。 左様のこともなからまじき物かハと、人に語り しか。その人、聞て曰く。げにさることも不思議 なれど。*それより |
1すばり‐わかしゅ(窄若衆) 男色を売る少年。陰間(かげま)。若衆。 |
1 *(派生噺①) |
(14)婦(かゝ)はあきれて空見もならず 16頁の挿絵? お袋・娘?・下男 |
13-2頁の挿絵? 的之助・女 |
(15-2) に。姫2くちなわを一疋捕へて帰りしが。 にて。 なるほど人らしい奥様になりて居侍りぬと。 △ 或 門外 何事やらん、 に袖ぬれて。又親のもとへ帰り居ましぬ。 此家に あいともに思惑ずれと見なし、山の3くち |
(15-1) □さらせまいらする□娘ハたましゐ絶入。 慮外ながら、差し寄りよりぐつと入れ。息もはづ □(み?)つく。お た?つ心地に。むつかりける。やうやうしまひ頃に。お 蔵へ来たりて見らるれハ。1つがもなき様子なり。 お にや。「なふ、 木で押されさゝんセぬか」といふ。おふくろ息巻 きて。「あのうづき な |
2くちなわ(蛇) (朽縄に似ているからいう) ヘビの古名。 3くちなし 梔子と口無し。 |
1つがもなき つかもない。とんでもない。 |
(16-2) (親父)「憎い奴かな。俺が大事の娘を」(男)「あの あゝ。何とせう」(親父)「知ら ぬまで身がもえると あい の垢を取り取り申やう。「旦那様から娘御さまを。抱き いれませよと仰せ付けましたる故。下地ハ好き わき上がりました」と云ふとなり。あれげに。 □□し。その袋すゝぎの、 □□ 焚入るゝと云ふハ、酒造る □がきたるに。湯を□□□ |
(16-1) なしの言はれもせねバ聞かされもせで に過ぐしけり。ある時、男酒蔵へ入りて。 お に。今日ハ2焚きいれよ」と告げやる。もとより尻の はやき娘「心得 さうな目元して。「なふ、今日ハ焚き入れよと 父様の言わさんすぞや」といふ。男、お娘様 にひたひたと寄りつき。いかにも抱いれ参らせん と。力筋太く健やかなるものゝ。蔵の |
○下地は好きなり御意(ぎよい)はよし もともと自分が好きであるところへ、好意をもってすすめられるの にいう。 |
1酛(もと) 本酒を作る時に使う、酵母を培養したもの。 酒母(しゅぼ)のこと。 2たきいれ 焚き入れ 抱き入れ |